ノンストップいぐざむ

細かいことは気にしないで生きています。

ある若人の情歌

 

「君のことが忘れられない......」

 

 

誰もいない真っ暗な部屋の中、僕はぽつりと呟いた。

静まり返った空間に声が反射して、少しは気が紛れるかと思ったが

僕が借りている6畳間のアパートでは、呟いた声は暗闇に飲まれるばかりで

君に会えない焦燥は、紛れるどころかより高まる一方だった。

 

初めて君を知ったときは、こんな気持ちにはならなかった。

 

なんだ、こんなものかと、期待外れなくらいだった。

 

しかし君から離れれば離れるほど

 

 

君なしでは生きていけない。

 

 

そう強く感じるようになったのだった。

 

 

 

君が欲しい。

 

君が欲しいよ。

 

 

 

深夜3時、僕は部屋を飛び出した。

 

 

どこに居るかはわかっている。いつも決まった場所があるのだ。

 

 

君を求めて、僕は一心不乱に足を動かした。

 

 

速く、できるだけ早く、君を僕のものにするために。

 

 

 

 

夜中なのに、街の明かりなんてわずかしかないのに

はやけに明るかった。

 

僕の後ろからついてくる、七色に光る大きな波が

僕の身体を包みこんで夜の虫たちを照らしている。

 

 

なんでこんなところに虫が?

 

 

なんだ、僕の指か。

 

 

 

 

どんなに速く走り続けても、僕の身体が疲れることはなかった。

おかげであっという間にいつもの場所に到着することができた。

 

いつもの。路地裏。

 

 

 

「おい!出てこい!あるんだろ!!くれよ......!!!!」

 

 

僕は、僕の頭の中で鳴り響く騒音に負けないくらい大きな声で叫んだ。

 

 

 すると、音もなく、不気味なほど機械的に、1人の男が僕の前に現れた。

 

 

 

僕の目当ての人だった。

  

 

僕は彼に、前回よりもずっと多くのお金を渡し

  

彼は僕に、針のついたピストン式の容器を渡した。

 

 

 

 

 

あぁ……やっと会えたね……。

 

 

 

 

針が僕の二の腕に小さな穴を開けると

 

 

僕は君で満たされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

STOP。違法薬物。

 

ダメ。ゼッタイ。

 

 

 

─完─