ノンストップいぐざむ

細かいことは気にしないで生きています。

おっさんゾーン

 

電車に乗った。

比較的空いている。

座席はほとんど埋まっているため立って乗ることにはなるが、自分の他に立っている乗客はさほど多くなく、好きなポジションを選べる状況だ。

 

こういう時、どこを陣取るか?意外に重要なテーマだ。

なんのこと?と首をかしげた読者も多いことだろうから、先に争点を説明しておく。

 

かわいいネーチャンの側を陣取りたいが

(あ、こいつかわいいネーチャンの側を陣取りたいんだな)

とは思われたくない。

 

です。

ここが争点です。

はいここ、テストに出ません。

 

いいか?これが悲哀溢れる悲しきアラサー男性(独り身)のサガだ。

 

俺だってマブいチャンネーとニャンニャンしたいんだよ

でも出来ないんだよ!

だったら電車の中で、なんとなーく可愛い子の側を陣取る、これくらいしたってバチはあたらねぇんじゃねぇか!?!?

(なんでニャンニャン出来ないの?ってそりゃ、ねぇ、うん。)

 

でも俺は全く知らん他人にだって、こいつデキるな、って思われたい。

(あ、こいつ可愛い子ちゃんの隣をわざわざ選んでる……)

と思われるなんて言語道断。

ましてや痴漢などと言われた日には人生終了。

 

痴漢騒ぎを受け、駆けつけた女性駅員に事務所の奥に連れていかれて

「ねぇ、君、こういうのが好きなの?ふーん、じゃあシてあげよっか♥️」

なんていう展開のむふふなビデオを観たことがあるような気がしていたが、別にそんなことはなかったぜ!

 

 

 

そんなわけで俺は、目の前に座る可愛いネーチャンを断腸の思いで素通りし、安寧の地を求めて車内を彷徨った。

 

でけぇ荷物の外国人観光客。

夫婦には見えない、関係性の謎な中年男女二人組。

いかついスポーティーな兄ちゃん。

 

たくさんのよくわからん乗客たちを通りすぎて行ったその先に、それはあった

 

"おっさんゾーン"

 

間違いない、ここが俺の安寧の地だ

 

車両の奥の奥、車両間を移動できるドアの前に、おっさんが集まっている。

右も左もおっさん。風体はバラバラだが、間違いなくみな"おっさん"だ

なぜここにおっさんが溜まっているのかは定かでないが、考えることは皆同じということかも知れない。

他の乗客などには目もくれず、みな一様に下を向き一心不乱にスマホをいじっている。

 

 

あぁ、心地よい。

こんなおっさんゾーンを好んで陣取る俺のことを、訝しむ者など誰もおるまい。

思えばこれまで、どこか社会と繋がり切れない人生だった。自分は社会に適合できていない、そんな後ろめたさを常に背負って生きてきた。

 

そんな俺でも、初めて社会に認められたような気がした。

俺はまっとうな大人なんだ……!

 

 

そうして、満ち足りた気持ちで俺はおもむろにスマホを取り出し

ウマ娘のアプリを起動して二次元の美少女にニヤニヤしつつ

視界の斜め奥にいる可愛いネーチャンのことを時折チラ見しながら電車に揺られた。

 

 

 

おっさんゾーン、意味なし。

 

 

 

 

各鉄道会社に告ぐ。

女性専用車両なんて要らないから

「おっさんの自己懲罰車両」を今すぐ作れ。

 

─完─