ノンストップいぐざむ

細かいことは気にしないで生きています。

少し昔話をしようか

 

少し昔話をしようか。

あれは俺がまだ、公園の鉄棒だった頃の話だ。

 

当時、俺が居た公園には、たくさんの遊具があった。

まだ世間が今ほど事故やら何やらにうるさくなかった時代だったんでね。今じゃ考えられないくらい危険な遊具も多かったよ。

ゴンドラタイプのブランコとか、目もくらむような高さの昇り棒とか、そういうのさ。

 

子供ってのは、正直なもんでね。あいつらが我先にと遊びたがるのは、いつもそういう危険でエキサイティングな遊具だった。

俺みたいな背の低い、パッとしねぇ鉄棒なんか、見向きもしねぇ。

俺はいつも、他の遊具で楽しそうにはしゃぐ子供たちを横目で見ながら、独り寂しく、アリんこがビスケット運ぶのを見てるしかなかったってわけよ。

 

笑えるだろ?若ぇ頃とは言え、みっともねぇ話さ。

 

だが、こんな俺にも夢があった。

一度でいい。一度でいいから、女の子の手ってやつを、握ってみたかったんだ。

 

俺がいた公園に来るのはやんちゃな坊主たちばっかりでな、女の子なんて一人も来やしねぇ。

だからよ、当時の俺は、女の子のことが全くわからなかった。

 

俺だって男の端くれさ。女の子に興味くらいは当然あらぁな。

でも、俺は人気のねぇ、寂しい寂しい鉄棒風情。女の子との関わりなんて、あるわけもねぇ。

結局、俺が女の子の手の感触を知ることはなかったよ。

 

 

心に寂しさを抱えてたって、時間ってのは平等に過ぎて行く。

身体は勝手に、大人になっちまう。

 

お前さんも知ってるとは思うが、ガキの頃にゃ鉄棒だった身体も、大人になりゃ人間になる。

女を知らずに育った俺も、気が付きゃ無事に人間様の仲間入りってわけよ。

 

そんなわけで、すっかり大人になっちまった俺だが、ガキの頃の記憶っつーのは不思議なもんでね。その時の感覚が、大人になった今でも頭にこびりついて離れねぇ。

俺の頭の中は、女の子の手の感触のことでいっぱいよ。

 

そんな時さ。俺がお前さんに出会ったのは。

初めてお前さんを見たとき、ビビッと来たよ。

 

あぁ、この子だ。ってね。

 

 

……なぁ。俺は観ての通りこんな、冴えねぇ男だけどよ。

どうかこんな俺に、握られちゃあくれねぇかな?

 

……ダメかい?

 

 

鉄棒のお嬢さんよ。

 

 

─完─