「何?サイゼリヤで喜ばない女がいるというのかね?」
「はい、時々SNSで話題になるんすよ。贅沢な話っすよね」
部下の何気ない世間話に、私はいたく驚いた。サイゼリヤほどの優れた企業で女が喜ばないとは、すごい時代になったものだ。
自分で言うのもなんだが、私はとある巨大企業の社長で、かなりの金を稼いでいるつもりだし、これまでにあらゆるいい女を口説いてきた。
私はもう若くはないし、ルックスだって決して良くはない。だがそんな私でも、圧倒的な財力を見せれば、大抵の女はモノに出来た。もちろんレストランにだって詳しい。あらゆる著名なレストランを知っているし、経済事情などもある程度は把握している。
そんな私から考えても、サイゼリヤで喜ばない女がいるとは、信じられない思いだった。
その晩、私はある女に電話をかけた。
女の名前はミカ。
ミカは、私が口説き落とした女の中で最も美しい女であると同時に、最も金のかかる女でもあった。この女を口説くのには本当に苦労した。いったいいくら注ぎ込んだことか……。
そんなミカの誕生日が今週末に控えているのだ。実にちょうどいいタイミングだ。私は例の噂を確かめるべく、思いきって口を開いた。
「ミカちゃん。誕生日のことなんだけど……サイゼリヤなんて、どうかな?」
こちらの狙いを気取られぬよう、できるだけ堂々とした口調でミカに言う。
ミカは何か考えるように一瞬黙った後、普段よりも一層高いトーンで、甘えた声を張り上げて言った。
「……えぇ、本当に!?本当にいいの!?やったー!ありがとう!ダーリン、大好きー!」
そうだよな。やっぱりそうだよな。
サイゼリヤで喜ばない女なんて、いるはずがないんだ。
やはりSNSなんてものはアテにならない。世の中の情報は、自分で集めるものなのだ。
それから一ヶ月ほど経ったある日のこと。
例の噂好きの部下が、興奮した様子で私のところに駆け寄って来た。
「ちょ、ちょっと社長!このニュースみてくださいよ!今、SNSで超話題になってるんすよ!ヤバいっすよ!」
まったく、相変わらずSNSか。お気楽なもんだな。どれ、そんなに言うならば見てやろう。
部下が慌てて見せてきたスマートフォンの画面には
"突如として買収されたサイゼリヤ!社名を「わくわくミカちゃんランド」に改名すると発表"
という見出しの新聞記事が大きく紹介されていた。
ミカのやつ、俺のプレゼントをずいぶん気に入ったようだな。
─完─